体力があるとは
毎日、オリンピック観戦で寝不足しているというスポーツ大好きな患者さんから、「スポーツ選手はどんどん記録が伸びているのに、一般人はどんどん体力が落ちている。何故でしょうか?」と質問を受けました。
まず、記録が伸びているのはスポーツ科学といって、その競技の目的のために必要な筋力を効率良くつけるという技術が発達したからです。体力の有無とは全く関係なく、スポーツ科学の進歩が高い技術や記録を生み出しています。
そして実は、体力低下の問題は現代人全てに言えることであって、スポーツ選手といえども決して例外ではないのです。
その証拠に、スポーツ選手が特殊な訓練を続けた結果、体力が向上するどころか心身のバランスを崩して体調不良に陥ったり、ケガがなかなか回復せずに早期に競技の引退を余儀なくされる人が昔より増えてきています。その理由は記録を伸ばすための科学トレーニングが心身のバランスに異常をきたしてしまう事があるということ。実際にある水泳選手は「水の中では元気だけど、地上に上がるとすぐに疲れてしまう」とまで言っています。
ではこの「体力がある」とは本来どのような事なのでしょうか。
体力とは身体の「総合体力」をいいます。だから、体力がある人というのは健康で、運動神経もよく、知力もあり、外見も美しい。つまり高いレベルで全身のバランスが取れているということ。
ゆえに、健康的に見える人は運動も出来て頭も良い。知力というものも神経の働きですから、運動神経が発達している人は知的神経も当然発達している。つまり、本来のスポーツマンとは頭も良かったのです。
しかし、現代のスポーツマンは欧米人を真似して筋肉をつけすぎるため、大きくなった筋肉に血液が奪われ、脳に行く血流量が減ってしまいます。結果として筋肉をつければつけるほど頭の回転は鈍くなっていく。知力がなければスポーツマンであっても養生ができず、ケガやスランプに冒されやすくなるため、総合体力はないという事になります。
ちなみに、今回のパリオリンピック日本選手団で私から見て一番「体力がある」のは、マスコミからのプレッシャーを物ともせず、金メダルを取った柔道の阿部一二三選手です。彼は心技体のバランスがよく、見るからに健康的。また、体力がある人の相は顔のパーツが中心に集まり、引き締まった印象になりますから、まさに阿部一二三選手は「体力がある」といえましょう。
反対に誰でも体力が落ちてくると顔のパーツは広がり、間延びした人相になりますので、皆さんご注意を(笑)
このように、スポーツの記録が伸びているからといって、現代人の体力も向上しているとは限りません。
それどころか、何をするにも便利になった現代では、身体を動かすことも、知恵を絞ることも減ってしまいました。体力とは全身の総合力ですから、現代よりも不便で、身体と知恵を働かさなければ生活が出来なかった昔の人間の方がはるかに総合体力は優れていたのです。
現代人の体力が落ちてきている一番の原因はズバリ、世の中が何事も便利にし過ぎたということでしょう。便利にすればするほど、人間の体力は衰えて行くのです。