呼吸を調える
冬の足音が少しずつ聞こえ始めるこの季節。日暮れが早くなり、何となく “憂いの気分” になるという人もいるのではないでしょうか。
東洋医学では五志と言って【春は怒】【夏は喜】【土用は思】【秋は憂(悲)】【冬は恐】が生じるとしています。また【怒り過ぎは肝】【喜び過ぎは心】【思い過ぎは脾】【憂い・悲しみ過ぎは肺】【恐れ過ぎは腎】を傷つけるともされています。
大切な五臓を傷つけられては、さぁ大変…ということで、感情が過ぎた場合、心を落ち着かせるにはどうしたらよいのでしょうか。
今、自分の心がどんな状態なのかを見極めるのはとても難しいですよね。しかし、心の状態は “呼吸” に現れます。例えば、心が乱れていると呼吸が荒くなる。緊張すると呼吸が浅く短くなります。ゆったりとした呼吸ができている時は心が落ち着いている状態といえます。また、感情が波立っている時に呼吸を落ち着かせると、その波が収まり、物事は思いのほかスムーズに流れるものです。
そこで、呼吸を調える簡単な方法をご紹介いたしましょう。
①口からお腹の空気を“全部”出すつもりで、フーッと吐き出す
②吐ききったら、口を閉じる
③自然に鼻から空気を吸い込む
たったこれだけですが、これを繰り返していると感情の波はだいぶ鎮まってきます。
この呼吸法は円覚寺の横田南嶺管長が常々行っているということで、私も真似して最近始めたのですが、凄く良いので皆さんにお伝えさせていただきました。管長は「呼吸を調えることは、禅の実践そのもの」と言います。禅には決まった形が有るわけでなく、立ったままでも、また歩きながらでも、私達の意識次第で実践することができるのです。
五志はどれも人間にとって持たなければならない感情なのですが、ウェットな日本人は特に「思・憂・恐」が優位になりやすい傾向があります。反対にドライな欧米人は「怒・喜」が優位になりやすい。どちらも偏りすぎては心身のバランスを崩しますから、やはり中庸を心掛けるべきでしょう。そのためには先ず、呼吸を調えることから、禅の実践を始めてみてはいかがでしょうか。