不機嫌でも いいじゃないか
ある日、眉間にシワを寄せ、口をへの字に曲げて治療院に入ってきた患者さんがいました。問診中も不機嫌で無愛想…。しかし、症状をよくよく聞いていくと、「こりゃ、不機嫌で無愛想になるのも仕方ないな」という身体の状態でした。
最近は「機嫌が悪いのは罪だ」と言う人もいるようです。機嫌が悪ければ周りの人に不快な思いをさせたりして、悪影響を及ぼすと言うのです。
誰だって出来れば機嫌よくいたいものですが、そう出来ない事情があれば、無理に機嫌よく振る舞うことはないのではないでしょうか。勿論、基本的にはネガティブに物事を考えるよりは、何でも前向きに考えて行動するべきですが、身体の調子を崩していれば、上機嫌に振る舞う事などできっこありません。
私はあまりテレビを見ませんが、たまにつけると、お笑い芸人がよく出演していて、番組を明るく盛り上げています。テレビ番組は暗ければ誰も見ないでしょうから、明るい方向で演出されるのは分かります。でも、テレビに見られる「躁のように明るい空気感」は、皆の前では「明るく楽しく上機嫌に振る舞うのが良いことなのだ」と世の中に浸透している気がします。そうだとしたら、いつも上機嫌でいるべきだというのは、痛みや病気を抱える人からすれば、とても理不尽な圧力になります。
理由もなくしんどい。頭痛が辛い。腰を少しでも動かすと激痛が走る。そんな人が不機嫌な顔になるのは自然な事で、人前だからといって無理に明るく振る舞う必要はないでしょう。しかし、そんな時でも心を鍛える努力は必要だと思います。健康な人にはない、心を鍛える機会を与えられたのだと考えれば耐えられるのではないでしょうか。肉体的苦痛は精神を強くします。
私も50歳間近ですから、身体の不調や痛い処の一つや二つはあります。腰が痛い時は、おそらく私は不機嫌な顔をしているはずです。痛い時はさすがに上機嫌にはなれません。痛いものは痛い。仕方ありません。年配者が不機嫌だったり、眉間にシワを寄せている時は、それなりの理由があるのだと誰もが想像出来るようになると、皆がもっと生きやすい世の中になるのではないかと思います。
人は不機嫌だったり、機嫌よくなったりと、波があるのは当たり前。私なんかは、痛みがある時はなるべく人に近寄らないようにしていますが、基本的には人前で不機嫌な顔をしたって構わないと思っています。人にはそれぞれ、人に言ったところでどうにもならない事情があるのですから。
不機嫌な顔をして治療院に入って来た患者さんが、帰り際にチラッと笑顔を見せてくれました。ほんの一瞬の事なのですが嬉しいですね。だから、私はこの仕事を止められないのです😊